名古屋家庭裁判所一宮支部 昭和49年(少ハ)1号 決定 1974年6月17日
少年 M・N(昭二九・五・五生)
主文
本人を昭和四九年八月八日まで富山少年学院に引続き収容する。
理由
本件申請の要旨は、「本人は昭和四八年七月五日名古屋家庭裁判所一宮支部で中等少年院送致の決定をうけ、同月六日富山少年学院に収容され、昭和四九年七月四日をもつて少年院法一一条一項但書による収容期間を満了するものである。本人は現在富山県立○○高校(通信制○○学級)二年在学中で、大学進学を希望しており、当院より、出院後は帰住地の高校へ転入学する予定であるが、先方学校の選考受入時期は第二学期となるのでそれまで引続き当院で勉強を続け、第一学期を終了し、また今年八月初旬の大学入学資格検定を受験したいとの希望を有しており、右受験後に退院することが本人の更生上も望ましいので今年八月二〇日迄収容継続を申請する」というにある。
審判における本人、保護者(父)M・S、富山少年学院分類保護課長加藤勘平の各供述ならびに本人に対する少年調査記録によれば以下の事実が認められる。
本人の院内での成績は概ね良好であつて規律違反行為が二回あつたにとどまり、昭和四九年四月一日および同年六月一日には全般賞をうけ、矯正教育の成果はあがつており、このまま進むと同年七月一日ころには一級上の処遇段階に達する見込みである。
ところで本人の在院する富山少年学院は中等少年院送致の決定を受けた少年のうちから高校進学希望者を集めて収容しており、同学院には富山県立○○高校の通信制の○○学級が設置され、夜間が自習時間にあてられるほか週一回同学院内でスクーリングが行なわれている。本人は同学院に入院後○○学級の第一学年に編入され、現在同学級の二年生である。将来は僧侶(本人の家は天台宗のお寺)ないしは学校の先生になることを希望し、当面のところは大学進学を目標にしている。そのため出院後は両親の居住する愛知県岩倉市に帰住するが、もよりの県立高校の定時制二年に編入してこのまま順調に学業を継続したい意向である。ところが○○学級の一学期末テストは七月二〇日頃に予定されているので七月四日に出院してしまうと一学期の課程を終了することがきわめて困難となり、ひいては帰住地の高校の編入試験をうけられなくなり、来年度再び第二学年からスタートし直さなければならない。本人は同学院に入院前、通算すると二年半高校に在学しているのに勉学を継続することができず、退入学を繰り返しそのつど第一学年からやりなおし勉学意欲をそがれたという経験からぜひともこの九月より編入したいと考えている。さらにまた今年八月五日から八日にかけて大学入学資格検定が実施されるが、本人は今年と来年の二回で同検定の全科目に合格したいと考えて今年六月初め頃からは特に希望して毎日午後一一時ころまで勉学に励んでいるが、出院後の生活の乱れが心配なのでそれまでひきつづき同学院で勉強を続けたいとして本人自ら収容継続の申請を学院長に願い出た。保護者も同様の意見で目下のところひきつづき進学させることだけを考え、帰住地での就職先の配慮等はしていない。
以上の事実および本人の非行の原因が軽率な、上つ調子な性格に加えて目標のない生活態度にあつたことを考えると、帰住地の高校に編入して順調に学業を継続することができるように一学期の期末テスト終了まで収容継続すること、さらに期末テスト終了後も大学入学資格検定の受験終了まで収容継続することが本人の犯罪的傾向の矯正のために有益であると考える。すなわち、本人が同検定めざして現在勉学に励んでいること、右受験終了まで収容継続を積極的に希望していることは前述のとおりであるが、大学進学を当面の目標とする本人にとつて同検定に合格することは、かりにその一部科目であるにせよ同人に自信をもたせその将来に方向づけを与える意味で、その更生に有益であることは明らかであり、本人の能力等からみて現在の勉学意欲を持続すれば今年度大学入学資格検定の何科目かに合格するがい然性が高いこと、同検定は帰住地にても受験可能であるが、本人の性格的欠陥として持続性の乏しさ、根気強さの欠如が指摘され、特に出院直後の気のゆるみや従来の交友関係の復活等から生活に乱れを生じ現在の勉学意欲が減退して目的を達しえない不安が存すること、勉学環境としても同学院の方がよいこと、一方収容継続しても本人が積極的に希望することであり、比較的短期間でもあるから本人の自由を不当に拘束することにはならないこと等を考えあわせると、右受験までの間収容を継続することが相当であると考える。
以上の次第で今年度の大学入学資格検定の最終日である昭和四九年八月八日まで収容を継続するのを相当と認め、少年院法一一条四項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 打田千恵子)